ノルウェー・ハーダンガー刺繍

以前 刺繍通信という雑誌を楽しんでいました。今もvol.1-vol.14を大切に本棚に収めてあります。200310月発行のvol.3の表紙はハーダンガー刺繍です。本を出して刺繍をされた方のお名前を確認してみたらKinuyo Wakaume さん 。当時はホノルルと日本を行ったり来たりの生活でしたのでしっかりと刺繍を学ぶ時間は取れませんでした。本がわたしの先生でした。
2009年に日本へ帰国して生活が落ち着いた頃、2014年からヴォーグ学園の刺繍クラスに通えるようになりました。(キルト塾には1999年から2012年 宮谷先生のクラスでお世話になっていました。)クレジーキルトで使う刺繍とは異なるスタイルの刺繍をきちんと学べる事は楽しみでもあり自己流で刺してきた自分にとって毎回のクラス内容は期待以上です。クラスプログラムにハーダンガーワークも組込まれています。刺し終わって糸をカットするプロセスでは緊張で手に汗をかいて作業をしていましたね。
昨年はイタリアのウンブリア州に行き、アッシジ刺繍やソルベッロ刺繍などを制作している人達にお会いして話を伺ったり作品や作業のプロセスを見学させていただきました。そこで今回はノルウェーにハーダンガー刺繍を見に行くことにしました。しかしハーダンガー刺繍に関する情報は非常に少なく、まずノルウェーのどこに行ったら良いかを探さなければなりませんでした。ようやくハーダンガー民族博物館のホームページを発見し、ハーダンガーフィヨルドの奥地のウトネと言う小さな村に行くことになりました。半年以上前からキユーレーター(学芸員)と連絡を取り、さらにノルウェーに入国してからも現地情報を収集しながらの旅でした。

1.ベルゲン

世界遺産の木造建築群ブリッゲン
世界遺産の木造建築群ブリッゲン

まずハーダンガーフィヨルドへのゲートウェイであるノルウェー第二の都市ベルゲンに入りました。ホテルを出て石畳の道をしばらく歩くと港を隔てて世界遺産の木造家屋ブリッゲンが見えてきました。ハンザ同盟で栄えたカラフルな街並みを散策しました。港に面した魚市場は市場というより屋台食堂街といった感じで、お店の前で料理し裏のテーブルで食事ができるようになっており、観光客でいっぱいでした。

ベルゲン展望
ベルゲン展望

ブリッゲンの裏手からケーブルカーで展望台のあるフロイエン山に登りました。ベルゲンの街が眼下に広がり絶景です。
ハーダンガー刺繍に関する情報収集のため魚市場の近くにある手芸用店NORSK FLID HUSFLIDENを訪れました。このお店にはハーダンガー刺繍を施した民族衣装が展示され、関係する書籍もありました。また幸運なことに店員のノルウェー女性が日本語をしゃべれたのです。彼女の話からハーダンガー刺繍をする人が非常にすくなく、コレクションを見ることができる場所もウトネのハーダンガー民族博物館以外にはほとんどないことが確認されました。
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2.ベルゲンからウトネへ

ウトネホテル
ウトネホテル

ベルゲンからハーダンガーフィヨルドの港ノールハイムスンまでバスで山間の道をとおり1時間半、そこから高速船に乗って美しいハーダンガーフィヨルドを遡りながら1時間でウトネにつきました。船着場の目の前の1722年創業の同じ建物で継続営業しているホテルとしてはノルウェー最古のウトネホテルにチェックインしました。1階はフロント、ロビー、レストラン、2階は客室の小さな可愛らしいなホテルです。客室にはテレビも電話もありません。部屋の窓の外は果樹園になっておりサクランボの実がなっていました。
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3.ハーダンガー民族博物館

フィヨルドとウトネの村

ウトネは小さな村です。ホテルの前には船着場があり対岸とを結ぶフェリーが1時間に1本ほど着き、それに合わせて車やバスが並ぶ他は人通りもほとんどありません。村の周りはサクンボやリンゴの果樹園で丁度収穫の時期でした。ホテルをでて右にフィヨルド左に民家やさくらんぼ畑を見ながら10分ほど歩き坂を登った所にハーダンガー民族博物館がありました。

ハーダンガー民族博物館

フィヨルドと村を見下ろす立派な博物館です。アポイントの時間には少し早かったのですが学芸員の方に暖かく迎えられました。我々以外には参観者はおらず貸し切り状態の贅沢な見学でした。

2階展示室

学芸員の方のご案内で2階の展示室にあがりました。広い展示室の左側にはハーダンガー刺繍を施された色とりどりの民族衣装衣装が並び、右側には白い布のハーダンガー刺繍が並んでいます。古い写真を見るとハーダンガー地区は辺境の地であり、生活も貧しかったことが分かります。そうした厳しい生活の中でも結婚式などのハレの日には美しく着飾ったのです。そのために女性たちは丹精込めて刺繍を施したのです。そうした衣装を揃える必要がある場合は親戚や知人に声をかけて分業で始めたそうです。何しろ細かい刺繍をするために時間が必要です。%e5%8c%97%e6%ac%a706%e3%82%a6%e3%83%88%e3%83%8d%e5%8d%9a%e7%89%a9%e9%a4%a8%e5%b1%95%e7%a4%ba59b現在でも特別な日の為にこれらの民族衣装を着るそうです。だれが制作しているのでしょうか?今は親族で制作をするのではなくどこかにオーダーするという答えでした。どこという具体的な答えではありませんでした。ハーダンガー刺繍をするグループや集まりがあるようでしたらお会いしたい旨のお願いを事前に申し入れておいたのですがかないませんでした。もう携わる女性がいない様です。でも希望のある答えを聞くことが出来ました。ハーダンガー刺繍が他の国に渡り人気のある手芸となっています。それを知りこの地域の若い女性の間にハーダンガー刺繍がリバイバルとなり少しずつ少しずつ習い始めているとのことでした。
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4.アガ民族博物館

アガ博物館
点在する古民家の航空写真。写真 上方向は100〜200 m overの岩壁 この日の天候は雨でしたのでいく筋もの滝が流れ落ちていました。写真 下方向 はフィヨルドです。このような土地の中に村がいくつも点在しています。船上からの景色はとても美しいものです
北欧07アガ博物館02
アガ民俗博物館の特別展示を示すポスター

ハーダンガー民族博物館の学芸員さんのアドバイスでアガの民族博物館とボスの民族博物館にもハーダンガー刺繍のコレクションがあることが分かり行く事が出来ました。アガはウトネから車で30分ほど離れた村ですが時間的に交通手段がありませんでしたが、ありがたいことにウトネの学芸員さんがご自分の車でアガの民族博物館まで送って下さいました。フィヨルドを挟んで両岸の高い岩壁から落ちるいく筋もの滝を見ながら雨の中のドライブでした。博物館への入り口となる小道の掲示板に美しいポスターが貼られていました。ハーダンガーの民族衣装の特別展の案内です。ウトネに入って始めて知り得た情報です。学芸員さんに御礼をお伝えしてここでお別れしました。感謝の気持ちでいっぱいです。帰国後 ヴォーグ社発行のステッチデイと手づくり手帖をお送りしました。
登りの小道を少し歩いて行くと古民家が点在しています。ガイドツアーは3時にスタートとの事でしたのでテイーハウスでコーヒーをいただきながらひと休み。民族衣装を見学したい事を伝え案内の学芸員さんを待ちました。やがて女性の学芸員さんが鍵を持って一軒の古民家の扉を開け部屋のライトをつけてくれました。先ず織り機が置いてありました。次の部屋には民族衣装と胸あてやリボン、エプロン、ブラウス 、 スカート、写真等々小さな部屋に隙間なく展示されていました。

寄贈された80代女性の15歳の時の写真
寄贈された80代女性の15歳の時の写真

学芸員さんはバルセロナの大学で勉強をされたとのことで英語とスペイン語での会話となりました(私も3年程マドリードで暮らしておりましたので多少スペイン語ができます)。ひとつの写真フレームを取り上げてここのコレクションは一人の女性の物で自身で刺繍した衣服と家に代々伝わってきた衣服、お母さん お婆さん ひいお婆さんとそれぞれの時代に必要な衣服を作り保存してきたものですとのことを話して下さいました。この写真は寄贈者の15歳の時撮影されたものですとのこと。衣服すなわち展示されている民族衣装は産まれたばかりの赤ちゃんのために用意されたものから成長に沿って制作されたサイズの違う衣服、もちろん全てにハーダンガー刺繍が施されています。一針一針刺繍をしてベビー用品を揃えて新しい家族を迎えていたのですね。織り機の上に彫刻をした手製のアイロンが置かれていました。やはり、花婿が花嫁の為に用意したアイロンです。幾つかの質問をさせていただきました。この辺の地域にはハーダンガー刺繍をしている方や皆で集まって刺繍をするグループがありますかとの問いには、たぶんいないでしょう。もう必要がないし時間がかかります。でも特別な日には伝統的な民族衣装を着るそうです。仕立ててもらうために時間を十分にとってどこかにオーダーメイドするそうです。係の女性の民族衣装はグリーンをベースにしたそうです。色を選ぶために特に意味を考えますかとの問いには個人的な考え方ですけれど自身の好きな色だからだそうです。では販売されているハーダンガー刺繍の品々はどこで制作されているのでしょうねと聞くと、アフリカでハーダンガー刺繍を作っていると聞いています。工賃が安いそうです。うーん 伝統を受け継いで繋いでゆく事の難しさをこの地でも知る事になりました。でも どこかで受け継がれて行くのですね。仕事にして現金収入が得られ生活が向上する地域も発生する事になります。たぶん ハーダンガーでも静かに 密やかにひと針ひと針刺繍を続けている女性はいると思います。との事でした。楽しい時間を過ごさせていただきました。バスに乗り遅れるとウトネに戻れなくなります。御礼とお別れの挨拶をしてサクランボ畑とリンゴ畑を見ながらバス停まで20分程歩きました。

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5.ボス民族博物館

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民族博物館からのボスの街の展望

ハーダンガーフィヨルド最奥の村アイフィヨルドからバスでボスに行きました。ボスはベルゲンと首都オスロを結ぶ鉄道とハーダンガーフィヨルドとソグネフィヨルド方面行きのバスの発着点の都市です。湖を取りまく山の上にボス民族博物館があります。

ボス民族博物館
ボス民族博物館

案内では徒歩15分とありましたがとても無理で駅からタクシーでくねくね道を結構高い場所へと登った所にありました。デスクで刺繍と民族衣装の見学をしたい旨を伝えると2階に展示してありますとのこと。上がって行くと広々としたスペースには様々な生活道具が分かり易く展示されていました。見学者は私たち2人だけです。先ず目的の刺繍とコスチュームのブースヘ行きました。北欧09ボスからフロム04f
ここで大変感心した事は胸あてのコレクションが豊富でガラスを張った薄い引き出しに大切にスッキリと見易く保存している事でした。はじめこのたくさんの引き出しを備えた箪笥状のものを見つけた時開けて良いものか迷ったのですが開けました。一段そして一段と撮影もしました。すごい数量と高度なデザインと技術に驚きの連続です。見学を終えて1階ヘ降りて行くとデスクの女性がそっと「引き出しには気がつきましたか?」と語りかけて来ました。「はい、見事なコレクションですね。撮影もさせていただきました。」と答えると笑顔で「OK Good 」お礼を伝えて野外の古民家のガイドツアーに参加しました。ドイツ イタリア 日本からの見学者ですので英語で説明をしましょうという事になりました。
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6.参照

ハーダンガー刺繍に関する書籍を買い集めて見ました。ノルウェー語のものがほとんどで読み解くのは困難ですが写真や図表は大変参考になります。

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後記

2016年の旅はハーダンガーへと決めて、手に入る情報を読み解きながら感じていた事は、ノルウェーのフィヨルドの奥のウトネという村のハーダンガー民俗博物館でコレクションを見学できることは分かったのですが、ご当地で人々がこの様に刺繍をしていますという情報が、見えない、書いてない、わからないという事でした。今まで グアテマラ、カンボジア、ラオス、インドネシア、トルコ、中国雲南省 、アメリカのアーミッシュやナバホ族等々、訪ねた先では実際に日々の仕事として手仕事に励む皆さんにお話を伺うことができました。情報は十分に無いながらも出来る準備をしてアムステルダムを経由してノルウェーのベルゲンへと出発しました。

現地の風景やウトネ、アガ そしてボスのハーダンガー民俗博物館の様子はここに記させていただいたレポートでかなりお伝えできたのではと思います。世界各地で人気のあるハーダンガー刺繍、観光シーズンには大型のクルーズ船が入り多数の乗船客が博物館を訪れるそうです。事前にワークショップを予約して体験学習する人達もいるそうです。アメリカからの訪問者が多い様です。年間 約1万人ほどの見学者をお迎えしていますとの事でした。

昨年 2015年はイタリア・ウンブリア州の刺繍家の皆様にお会いしました。アッシジ刺繍、ソルベッロ刺繍 etc.,どの先生も後継者のことを心配されていましたが、ウンブリア州の刺繍を継承させていこうと協会も設立し人やグループのバックアップをしています。組織が出来ていました。日本人の刺繍の先生や愛好家の訪問、イタリアの多様なスタイルの刺繍に興味を持ってくれる事を歓迎している様子でした。

ウトネでは残念ながら刺繍をされている方とはお会い出来ませんでした。でもご当地の若い方々の間にハーダンガー刺繍を伝承して行こうという明るい希望が芽生えてきている様です。

ハーダンガー博物館では9月に三日間の講習会を開いています。興味のある方は参加されてはいかがでしょう。この日以外でも希望により開催が可能だそうです。詳細はこちらをクリックしてください。

ウトネのHardanger Folk Museumの学芸員Mrs.Agnete Siversenさん 丁寧なご案内に感謝を申し上げます。貴重な情報やアガまで送り届けて下さった事。本当にありがとうございました。日本からヴォーグ社のステッチデイと手づくり手帖をお送りします。(日本語ですが)

アガ のHarganger Folk Museum のご案内して下さった学芸員さん、ぶしつけな質問にもわかりやすく率直に考え方をお話しして下さいました。感謝申し上げます。

ボスのHardanger Folk Museumのデスクの方、たくさん撮影させていただきました。寛大な姿勢をお示しいただきました。感謝申し上げます。

お父さん、今回も頑張ってわたしのわがまま旅行を現実に実行してくれた事に感謝します。これからもよろしくお願いします。

スージー