ルーマニアの赤い薔薇 という本を持っています。EUROPA ORIENTALIS  by MIYA KOUSEI、1991年11月1日 日本ヴォーグ社 発行です。写真と文章から人々の赤裸々な精神性が読み手に伝わりルーマニアの刺繍と民族衣装に魅せられ、2016年12月 ルーマニアに旅立ちました。

日本を夜発ってルーマニアの首都ブカレストに朝着き、タクシーで標高800mのスキーリゾートのシナイアの町を経由し2時間半ほどでブラショフに着きました。旧市街の中心の広場でクリスマスマーケットが開かれていました。ドイツのものに比べると規模は小さく人出も少ないですが夜になるとライトアップされ大変綺麗でした。

ブラショフ民族博物館 Brasov Etnografie Museum

ルーマニア各地の民族衣装が展示されていました。20世紀初頭のジャガード式自動織機があり実演してくれました。古い手機から現在の自動織機に移る前の半自動の機械で大変興味深いものでした。

クルージュ・ナポカ Cluj-Napoca

トランシルバニア地方の中心都市。ルーマニアで二番目に大きい聖ミハイ教会のたつ統一広場でクリスマスマーケットが開かれていました。食事の屋台ではルーマニア料理の中をくり抜いたパンに入った豆のスープが売られていました。ミニアイススケート場や音楽のステージが開かれ、サンタクロースが広場の周りのレストランや会場を歩きチョコレートを配っていました。ホテルの窓から正教聖堂と国立劇場が見え夜はライトアップされて綺麗でした。25日のクリスマスはキリスト教国の常でレストランを含めほとんどどこも開いていません。開いているのは教会と夜のクリスマスマーケットぐらいでした。日中はホテルでのんびりし、夜になって夕食を兼ねてクリスマスマーケットに行き、かろうじて開いているレストランを見つけ夕食にありつけました。外は雪になり静かなホワイトクリスマスでした。

トランシルバニア民族博物館  Ethnographic Museum of Transylvania

トランシルバニア地方の民族衣装が展示されています。残念ながら展示変更作業が行われていて一部見ることができませんでした。

カロタセグ地方 Kalotaszegi area

クルージュ・ナポカの西50kmほどの地域の村イズヴォル・クリシュルイの国道沿いに民芸品を売る店が並んでいます。クリスマスイブのため開いている店は少なかったのですが良い刺繍を買うことができました。丘の上には町を見下ろすように要塞教会が建っていました。国道の両側に近くの人々が農閑期や時間がある時に制作した民芸品を販売する店、よくよく見て行くと日用品雑貨、オモチャ、スポーツ用品、衣類、野菜や果物も並べるお店、台所用品等々も販売しています。販売相手は観光客だけではなく住民の人たちも利用する屋根のないショッピングモールの様です

シック村 Sic villege(イーラーショシュ刺繍)

クルージュ・ナポカの北東40kmほどのハンガリー系住民が住む村を訪問しました。到着してまず教会に行くと丁度ミサがあるようです。雪が舞う中、村人が三々五々集まっていました。年配の女性は民族衣装(赤又は黒のスカート、黒い防寒上着、黒いスカーフ)を身に着けていました。教会の中では小学生くらいの子供がバイオリンで賛美歌を弾いていました。教会の祭壇や周りは赤い糸で刺繍したIRASOS(イーラーショシュ)で飾られています。話しはそれますがノルウェーのフィヨルドにそった村の小さな教会の祭壇にはハーダンガー刺繍のクロスが掛けられていました。飾られている刺繍クロスに人々の崇高な想いが込められている様に感じます。次はブカレストの旅行会社に依頼してあったシック村家庭訪問です。シック村の伝統的な緑色の家に着くと白いスカーフをかぶり赤い服を着た女性が出迎えてくれました。67歳になるクララさんでした。そしてなんと我々を連れてきてくれた車の運転手はクララさんの息子さんでした。丁度クリスマスイブなので実家に帰ってきたのでした。通訳ガイドのロクサーナさんがギターを持ってきていて、クララさんの家の前で歌を歌い始めました。歌を歌わないと家に入れてくれない風習があるのだそうです。家に入ると歓迎のお菓子が用意され、自家製のスモモのパリンカ(強い蒸留酒)で乾杯です。ダイニングルームのサイドボードや壁の飾り棚などは綺麗な花模様が描かれていました。全てクララさんの手によるものだそうです。一旦外に出て「清潔の部屋」と呼ばれる嫁入り道具を飾る部屋のある離れに案内されました。そこでもう一つのサプライズが待っていました。玄関を入ると美しく花模様が描かれた木製の箱の上に日本の本が置いてありました。「ルーマニアの赤い薔薇」という1991年に出版された日本ヴォーグ社発行の写真集です。この写真集を見てシック村に来ることを決めた本でした。伺ってみると著者の「みやこうせい氏」はクララさんの家に泊まって取材していたそうです。みやこうせい氏のポートレートが大切に壁に飾られています。また日本のテレビ番組の取材で女優の羽田美智子さんが10日間泊まって生活したことも知り得ました。驚く事が次から次へと起こり奇跡の様です。「清潔の部屋」に入ると天井まで届く程の高さまで刺繍を施されたピローをはじめカラフルな寝具や衣装箱で埋め尽くされていました。これこそ本やインターネットで見て憧れたそのものと感激しました。母屋に戻ってクララさんから刺繍の手ほどきを受け、日本では見たことのない技法を見せていただき図面も書いて下さいましたが難しい刺し方です。そのあとクリスマス料理をいただきました。チキンスープ、牛肉料理、デザート、どれもクララさんの手料理です。素朴で暖かく美味しい料理を堪能していると、小学生くらいの男の子が入ってきて賛美歌を歌いはじめました。歌い終わるとみなさんからお年玉が渡されます。これがこの地方のクリスマスの習慣のようです。期待以上の体験をさせていただきました。思いがけず心のこもったおもてなしをしていただきました。一生忘れる事の出来ない素晴らしいクリスマスイブです。更にクララさんが大切に使われていたスカーフを譲り受けました。黒い布に自ら沢山の花模様を刺繍したスカーフです。ご当地の女性は教会に行く時や外出の際には必ず身に着けるスカーフです。
クララさんにたくさんの質問をさせていただきました。刺繍や家具に花模様を描く事などはどこかへ通って指導を受けたのではなくお婆さん、お母さんの手仕事を見て学び幼い頃から自分の持ち物などには刺繍をしていたそうです。クララさんとわたしの様子をキッチンの奥から見守るご主人様、クリスマス イブの大切な時間に私たちの訪問を受け入れて下さいまして本当にありがとうございました。忘れない様にメモしておきます。クララさんとわたしは同い年です。新しいスカーフが完成した頃また来て下さいとのご挨拶をいただいてお暇いたしました。