信州紬は長野県全域で生産される絹織物の総称です。生産される地域によって「松本紬」「上田紬」「飯田紬」「伊那(いな)紬」などがあり、今回は「松本紬」と「上田紬」の工房をめぐりました。

松本で染織作家の本郷孝文先生の工房を訪ねました。松本はかつて片倉製糸紡績の大工場などがあり紡績業が盛んでしたが今では本郷先生の工房しかないそうです。先生は大学進学とともに映画映像の世界に身を投じられましたが、25歳のときに実家(三代続く機屋)に戻り織の世界に入られ、民藝運動の創始者、柳宗悦氏の甥、染織界の大家柳悦博氏を師と仰ぎ、手織りを続けておられます。本郷織物研究所工房

20種類ほどの織り方を駆使する先生の繊細な作品を拝見させていただきながら大変貴重なお話を伺うことができました。

 

午後、松本から西上田の小岩井紬工房に向いました。
上田紬は江戸時代より大島紬・結城紬と並ぶ日本三大紬の一つと知られ織元もたくさんあったそうですが今では2軒を残すのみで手織りを続けているのは小岩井紬工房さんのみだそうです。工房に到着すると三代目の小岩井カリナさんににお出迎えいただき、染め・整経・機織りの一貫した工程をご案内いただきました。小岩井紬工房

小岩井カリナさんは北京外国語大学留学後、劇団前進座付属養成所で演劇を学び、一年後劇団前進座へ入座。在籍中は東京国立劇場、京都南座や全国地方巡演、また訪中公演などへも参加され2004年退座後、アイルランドへ短期留学、ヨーロッパを旅する中で日本の伝統文化の素晴らしさを感じ、実家の手織り上田紬の道へ入られた異色の経歴の魅力的な方でした。以前イタリアのペルージャで伝統的なイタリア織物を守って活躍されているマルタさんにお会いしましたが同じ情熱や雰囲気が感じられ洋の東西同じだなと感慨深いものがありました。


イタリア伝統織物工房(ペルージャ)のマルタさん

貴重なお話を伺ったあと上田紬の端切れを分けていただきます。

今年は新型コロナのため海外旅行ができなくなったこともあり、日本の工房をめぐる旅をすることにし、その最初が今回の信州紬の旅となりました。今後は沖縄・奄美大島・久留米などへの旅を計画しています。

今回の工房訪問を通じ、低廉な織物の輸入増加や着物を着る文化の減少などのマーケット変化から、機械化や他の織物(タオル・デニムなど)への転換などが進み、伝統的な織物産業が危機的な状況となっているのを感じました。その中で本郷織物研究所工房さんと小岩井紬工房さんが伝統を守るべく懸命な努力されている姿に感銘を受けました。今後のご活躍をお祈りいたしております。