蓼科の紅葉と温泉を楽しみ信州紬の工房をめぐる旅に行ってきました。

蓼科の紅葉スポットを調べ東山魁夷の「緑響く」のモチーフとなった御射鹿池、横谷観音展望台を周り、蓼科親湯温泉に宿泊し近くの蓼科大滝の紅葉を見るルートとしました。

信州紬は長野県全域で生産される絹織物の総称です。生産される地域によって「松本紬」「上田紬」「飯田紬」「伊那(いな)紬」などがあり、今回は「松本紬」と「上田紬」の工房をめぐることとしました。


新宿発10時の特急あずさ13号で茅野に行き、事前に手配しておいたタクシーでまず御射鹿池(みしゃがいけ)に向かいました。
30分ほどて到着しましたが池の前の道路の反対側に大きな駐車場ができており簡単に見ることができました。東山魁夷画伯の代表作の一つ「「緑響く」のモチーフとして有名です。

(長野県信濃美術館 東山魁夷館所蔵)
人気の観光地となっているため観光客も多く絵画のような神秘性は望むべくもありませんが期待通りの美しい池でした。

つぎに横谷観音展望台に向かいました。「横谷渓谷」は、奥蓼科の清流「渋川」に沿って伸びる約6kmにおよぶ渓谷で、信州屈指の紅葉スポットです。駐車場から5分ほど歩いて展望台から色とりどりの紅葉を楽しみました。

ホテルにチェックイン後、5分ほど歩くと渓流に降りる階段があり、足場の悪い細い山道をやっとの思いで下り、原生林のような神遊の森を通って蓼科大滝に着きました。

宿泊した蓼科親湯温泉は大正15年創業の老舗温泉旅館ですが4代目当主の柳澤氏がリゾートホテルに再生したものでロビーは3万冊の蔵書が並ぶライブラリースタイルのおしゃれな大人のホテルです。蓼科親湯温泉

食事は完全個室で夕食は先付け・前菜・スープ・魚料理・肉料理・ご飯・デザートが順番にサーブされ、朝食も山菜と湯豆腐のヘルシーなもので大変美味しくいただきました。
温泉は信玄の隠し湯として有名な名湯で、大浴場は畳敷き、露天風呂からは紅葉と渓流が眺められ、貸し切り風呂は窓がない半露天風呂で野趣に富んだ楽しい風呂でした。

翌日、蓼科の紅葉を眺めながら茅野に行き特急あずさ3号で松本に向かいました。

松本で染織作家の本郷孝文先生の工房を訪ねました。松本はかつて片倉製糸紡績の大工場などがあり紡績業が盛んでしたが今では本郷先生の工房しかないそうです。先生は大学進学とともに映画映像の世界に身を投じられましたが、25歳のときに実家(三代続く機屋)に戻り織の世界に入られ、民藝運動の創始者、柳宗悦氏の甥、染織界の大家柳悦博氏を師と仰ぎ、手織りを続けておられます。本郷織物研究所工房
20種類ほどの織り方を駆使する先生の繊細な作品を拝見させていただきながら大変貴重なお話を伺うことができました。

午後、松本から西上田の小岩井紬工房に向いました。
上田紬は江戸時代より大島紬・結城紬と並ぶ日本三大紬の一つと知られ織元もたくさんあったそうですが今では2軒を残すのみとで手織りを続けているのは小岩井紬工房さんのみだそうです。工房に到着すると三代目の小岩井カリナさんににお出迎えいただき、染め・整経・機織りの一貫した工程をご案内いただきました。小岩井紬工房

小岩井カリナさんは北京外国語大学留学後、劇団前進座付属養成所で演劇を学び、一年後劇団前進座へ入座。在籍中は東京国立劇場、京都南座や全国地方巡演、また訪中公演などへも参加され2004年退座後、アイルランドへ短期留学、ヨーロッパを旅する中で日本の伝統文化の素晴らしさを感じ、実家の手織り上田紬の道へ入られた異色の経歴の魅力的な方でした。以前イタリアのペルージャで伝統的なイタリア織物を守って活躍されている女性にお会いしましたが同じ情熱や雰囲気が感じられ洋の東西同じだなと感慨深いものがありました。


イタリア伝統織物工房(ペルージャ)

貴重なお話を伺ったあと上田紬の端切れを分けていただきます。

今回の旅行は、一日目は錦秋の蓼科と温泉を楽しみ、2日目は信州紬工房を訪ねるという充実したものになりました。

紬織はインドが源流で、陸路タイ・カンボジアなどの東南アジアの国々に伝わり、海路インドネシア経由沖縄に伝わり、その後日本中に広まったと言われています。私達夫婦は 中米グアテマラで紬織(イカット)にふれて紬織の伝播に興味を持ち、タイ・ラオス・カンボジア・インドネシア・インドと伝播の流れを追って工房めぐりの旅をつづけてきました。

グアテマラ・サンチャゴ・アティトラン村


タイ・チェンマイ・メーチェム村


ラオス・ルアンパバーン・バーンサンコン村


カンボジア・シェムリアップ・クメール伝統織物研究所


ミャンマー・インレー湖


ベトナム・サパ

インドネシア・バリ島・トゥガナン村(ダブルイカット)

インド・グジャラート・パタン村・パトラ織(ダブルイカット)

今年は新型コロナのため海外旅行ができなくなったこともあり、日本の紬工房をまわる旅を行うことにし、その最初が今回の信州紬の旅となりました。今後は沖縄・奄美大島・久留米などへの旅行を計画しています。

今回の工房訪問を通じ、低廉な織物の輸入増加や着物を着る文化の減少などのマーケット変化から、機械化や他の織物(タオル・デニムなど)への転換などが進み、伝統的な手織り紬産業が危機的な状況となっているのを感じました。その中で本郷織物研究所工房さんと小岩井紬工房さんが伝統を守るべく懸命な努力されている姿に感銘を受けました。今後のご活躍をお祈りいたしております。

信州紬工房見学の詳細記事がテーマ別(織物・染物)に掲載されています。ご興味があればご覧ください。

信州紬(松本紬・上田紬)