ウンブリア州はローマとフィレンツェの間にある州で、サッカーで知られるペルージャや聖フランチェスコの町として知られるアッシジがある州です。観光的にはあまり日本では有名でありませんが、中世の街並みが残る緑豊かな地方です。この地にはアッシジ刺繍をはじめ多様な刺繍やレースが今尚残っているとのことで、スポレート在住の粉川さんの案内でトレビのサンタルチア教会、アッシジのラフェエッラ先生、ペルージャのウンブリア州物産館、伝統機織博物館、ソルベッロ博物館、マジョーレ島のレース博物館、パニカーレの刺繍博物館、を訪ね伝統ある手仕事に携わるご婦人の皆様と支援される皆様にお会いしてきました。
アッシジ刺繍(アッシジ)
アッシジ刺繍のラフェエラ先生(Raffaella Bartolucci Cesaretti)にお会いし作品を拝見しお話を伺いました。先生はソルベッロ刺繍の権威であるポルポラ先生(Genevieve Porpora)と共にスポレート刺繍協会(UNITI DA UN’FILO)の理事をされており、アッシジ刺繍のオリジナルデザイン集や、アッシジ刺繍の歴史、デザインのヒント、貴重なアンティーク作品を収めた本(IL PUNTO ASSSISI)を著作されています。
布はテラアッシジ麻100%、糸はDMC20番を使っているそうです。デザインは中世のファサードの動植物の模様、デルータ陶器に使われる模様、ルネッサンスの画家ラファエロの絵画やグロテスク模様、聖書のモチーフをヒントにおこしているとのこと。
トレヴィサンタルチア教会の金糸刺繍(トレヴィ)
アッシジ近郊のトレヴィはオリーブの樹々の中、円錐形の高い位置に構成された人口約1000人の小さな町。遠くから見ると町全体がピンク色でとても印象的です。それは町の背後にあるスパシオ山から切り出された石材のおかげでバラ色の町並みなのです。高い位置に町が築かれた理由は外敵や疫病から町を守る為だったそうです。
ウンブリア州物産館(ペルージャ)
ペルージャにあるウンブリア州物産館に展示されている刺繍やレースをソルベッロ刺繍のポルポラ先生のご紹介で特別に手にとって見ることができました。
伝統機織GIUDITTA BROZZETTI(ペルージャ)
手動の織り機で昔ながらの織物を制作している工房を見学しました。
建物はSan Francesco教会を買い取ったもので、ひいおばあさんから代々受け継がれ現在も作品の制作が続いています。工房の雰囲気も際立ってそれ自体が芸術品を見ているようです。案内してくださった女主人のMartaさんはまるでモデルさんのような美しい人でした。
ソルベッロ博物館
ペルージャ大聖堂の裏手にある博物館で学芸員の方の説明を受けながらソルベッロ刺繍のコレクションを拝見しました。素晴らしい刺繍のコレクションです。展示点数も半端ではありません。コレクションした方の情熱、伝えたい願いが伝わってきます。ソルベッロ刺繍はその制作を敢えて分業化し技法を門外不出としました。このため一貫した制作技法を知る人は現在ポルポラ先生をはじめ数人しかいないそうです。
見学を終えた後バルコニーにはクロスのかかったテーブルに飲み物とアペリティーボ(おつまみ)が用意されていてホッと一息。夏の遅い夕暮れを迎えたペルージャの景色もタップリと楽しみました。
マジョーレ島レース博物館
ペルージャから1時間ほどフィレンツェ方向に行ったところにあるトラジメーノ湖の中のマジョーレ島にあるレース博物館を訪問しました。博物館の前の通りではレースを編む女性がお二人いました。お一人はアンナ・ディサンティスさん(90歳をこえています)は7歳の時からお母さんから口頭で編み方を教わりました。なんとマジョーレ島レースの創始者の直系でソフィア・ローレンやモナコ王妃のドレスを制作した家柄だそうです。
パニカーレ刺繍博物館
パニカーレ刺繍協会の皆さんの歓迎を受けチュール刺繍のコレクションを拝見しお話を伺いました。
ピッティ衣装博物館(フィレンツェ)
アルノ川の対岸にある広大なピッティ宮殿の中の衣装博物館を見学しました美しく上品なドレスが時代順に展示されています。一点一点・刺繍・スパンコール・ビーズ刺繍・レース・コード刺繍など、たくさんの種類の刺繍がそれぞれの時代の最先端ファッションとして見事に施されています。
後記
児童文学の山下明生先生ご夫妻からアッシジのお話しを伺い、
見ず知らずの1人の日本人のために、
後記2(2016年 7月8日)
ウンブリア州を訪ねたのは2015年の7月でした。それから10カ月後 ヴォーグ社発行のステッチイデー vol.23の世界刺しゅう図鑑の60ページから63ページに「優美なイタリアの刺繍プント・ウンブロ」のタイトルで詳しい記事が掲載されました。(文 粉川 妙)
今年は7月21日のヴォーグ学園のクラスの後ノルウェーのハーダンガーへ向かいます。色々事前に情報を収集していますがご当地のひと達による手仕事の伝統の継承は難しい事に直面しているようです。