今回の旅の目的は、石川県金沢で加賀友禅、白山の山深い村(白峰と桑島)で牛首紬、新潟県小千谷で小千谷ちぢみ・片貝木綿・古代織の工房を訪ねることです。


大宮から北陸新幹線で金沢へ2時間8分


金沢駅(おもてなしドームと鼓門)世界で最も美しい駅14駅の1つに選出されています

加賀友禅(鶴見工房)

加賀友禅作家の鶴見晋史(つるみくにちか)さんに制作工程をご案内いただき作品を拝見しました。加賀友禅(株)鶴見染飾工芸

鶴見家は加賀友禅の創始者と言われる宮崎友禅斎が身を寄せた加賀藩御用である紺屋頭取「太郎田屋」の家督を三代に渡り務めた鶴見他吉郎さんを曽祖父とする由緒正しい家系で、実父の保次さんは日展会員で、石川県文化功労賞を表彰された金沢を代表する加賀友禅作家の1人です。

晋史さんは九州産業大学芸術学部美術学科を卒業後、東京友禅を学んだのち、実父である保次さんから加賀友禅を学び、現在は加賀友禅作家として活躍しています。伝統を守りつつ新しい表現にも挑戦し、加賀友禅の手法で織物絵画を制作し2019年改組新第六回日展にて特選を受賞しておられます。

動画:1分53秒

記念にテーブルランナーを購入させていただきました

その後、武家屋敷跡を散策し長町友禅館で加賀友禅の作品を拝見しました。

夜、加賀料理を頂き、金沢城のライトアップを楽しみました。

 

動画:37秒

翌日、金沢から50キロ離れた白峰と桑島に向かいました。

牛首紬

牛首紬は、平家の落人が白峰村に逃れ、村人に機織りを教えたのが始まりと伝えられます。ひとつの繭に2頭の蚕が入った特殊な繭「玉繭」から「座繰り」により手挽きした太くて節のある玉糸をよこ糸に使うため、織り上げた紬は独特の光沢があり、他の絹織物に比べて野趣にあふれ、素朴な味わいと優れた耐久性から長く人々に愛されており、国の伝統的工芸品にも認定されています。

牛首紬 織りの資料館 白山工房

和服の需要の低下や第二次世界大戦などの影響も受けて商業としての紬生産は一時途絶え、一部の職人によって伝統的な技術を保つだけとなりました。戦後まもなく大きな工場が廃業するという危機によってその技の継承は途絶えかけたため、地元で建設業を中心として事業展開を行っている西山産業が繊維部として事業を継承しています。

白山工房は生産工程の見学対応に力を入れており、展示や作業工程案内などが充実していました。ご案内いただいた西山幹人さんは、大学卒後、地元の大手繊維メーカーに就職し、織物製造の基礎技術を学び、2014年に家業である「株式会社 西山産業」に入社。繊維部に所属し、牛首紬の製造技術を学びながらその製造に従事。現在では営業業務にも携わり、牛首紬の認知拡大に向けて精力的な活動を行っていらしゃいます。

白山工房の牛首紬は、2割が糸を先染めして織り、8割は白生地に織ってから後染します。高機(たかばた)による手織りは一部で、大半は玉糸機(たまいとばた:玉糸に特化した機械織機)で織られています。

動画:3分14秒


記念に「ふくさ」を購入しました

白峰村

白峰村は、日本三名山のひとつ白山の麓、平年の積雪が2mを超える日本屈指の豪雪地帯で、稲作はほとんど行われず、江戸中期から養蚕が行われていました。白山麓天領18か村の大庄屋として天領行政の中心であったため、山村でありながら寺院や建物が密集して町場のような景観です。明治中期の紀行文で「製糸業が盛んで、警察分署、登記所、宿、料理店、雑貨店、飲食店、呉服店、芸鼓、消防の施設など様々な施設がある。」と記しています。

重要伝統的建造物物群保護地区の古民家食堂で昼食をとりました

昼食後、白峰村の隣村、桑島村の加藤工房を訪ねました

加藤手織牛首つむぎ

大正から昭和の初め、桑島集落内には工場3ヵ所、家内工業的に各家庭で生産していたものを合わせて織機台数80~100台を数え、牛首紬の生産が盛んでした。しかし太平洋戦争中食糧増産のため桑園は畑に転用され、牛首紬の原料となる原糸の製造は絶たれ、牛首紬の生産は不可能となってしまいました。しかし、加藤三治郎(加藤手織牛首つむぎ3代目当主)一家が、僅少の山桑による自家養蚕により原糸を生産、牛首紬の生産を継続し今日も伝統を守っています。

今回、5代目当主の加藤治さんに作業工程のご案内をいただき、奥様に商品のご紹介を頂きました。加藤工房の牛首紬は伝統を守り①玉繭から座繰りで引いた玉糸をよこ糸に②高機(たかばた)で手織りし③全て白生地で出荷する④仕入れた業者が後染めしてから完成品としてマーケットにでる。というビジネスモデルを行っています。

動画:3分5秒

白生地を少し分けていただき、名刺入れを記念にいただきました

 

金沢に戻り、新幹線と特急を上越妙高で乗継、長岡に移動です

富山周辺、車窓からの風景

片貝木綿(紺仁染織工房)

紺仁染織工房は、宝暦元年(1751 年)初代 松井仁助が藍染めの染物屋として創業、以来約270 年の老舗染物屋さんです。

昭和20年代、民藝運動の一環として日本各地を回る柳宗悦や白洲正子たち一行が片貝を訪れたおりに技術を生かした独自の織物を作ることを勧められ、柳悦孝氏(柳宗悦の甥)の指導により自然素材である綿をできる限り自然のまま生かし、太さの異なる3種類の糸を組み合わせて織った片貝木綿を生産するようになりました。

今回、十一代目当主の松井均さんに片貝木綿の生産工程だけではなく、染物の工程も合わせて大変詳しくご案内いただきました。

動画:10分33秒

記念に片貝木綿を少し分けていただきました。

小千谷(布ギャラリー水田)

新潟県小千谷市にて麻や縮など天然素材と伝統色にこだわった製品をIONOブランドにて製造・販売している会社です。小千谷ちぢみの用途を着物だけではなくインテリアなどの分野に広げる努力をされており、店舗にはモダンでおしゃれな商品がたくさん並んでいました。

今回、水田会長に小千谷ちぢみの後工程(織り上がった小千谷ちぢみを「湯もみ」して「しぼ」をだす作業)や文化財級のすばらしい作品を見せていただきました。

動画:7分8秒

記念に小千谷ちぢみのスカーフを購入しました

古代原始布織(織田工房

楮(こうぞ)の表皮から「こうぞ糸」を作る方法を開発し特許を取得したお父様の後を継いで楮紙布織(とうしふおり)を作り出した折田一仁さんの工房を訪ね、その技法と作品を拝見しました。

動画:7分14秒

長岡に戻り上越新幹線で帰路につきました

おわりに

今回6個所の染織工房を訪問させていただきました。見も知らぬ埼玉県の老夫婦を温かく迎え親切にご案内いただきました皆様に心より御礼申し上げます。

着物離れが進む厳しい経営環境の中で伝統を守りつつ新たなマーケットへの対応努力をつづける皆様の熱意と努力に心より敬意を表し、さらなるご発展をお祈りします。