ハンガリーとルーマニアの刺繍

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ハンガリーの草原、畑や庭の景色を彩る薔薇や唐辛子、風に揺れながら咲き誇る小さな花ばなを刺繍のデザインモチーフとして真っ白な布に RGB(赤、緑、青)更に黄色等々の刺繍糸で刺しこまれた大きなクロス、周りをスカラップでしあげられたドイリーやコースターなど大変魅力的な刺繍がハンガリーにあります。

2012年7月ハンガリーへの旅が実現しました。日本の梅雨と蒸し暑さから逃れて爽やかな東欧への旅の筈でした。ドナウ川沿いの鎖橋に近いホテルにチェックインをしたのは午後の9時過ぎでしたが、夏時間でまだ明るく、期待とは反対で日本の真夏日かと感じさせられる外気温、足元からも頭上からもジンジン、テカテカ。数十年ぶりの異常気象がヨーロッパを襲ったのです。今回の旅の目的はカローチャ刺繍を見る事、チャンスがあれば刺繍をされる人達にお会いできる事を期待しています。暑さに負けず頑張って歩きます。

カロチャ刺繍 Kalocsa Embroidery

ブダペストでハンガリー刺繍を見るにはブダペストの繁華街のヴァーツィ通りや中央市場2階の民芸品店に行くことになります。どのお店も似たようなものでほとんどはカロチャ刺繍でマチョ刺繍はあまりありませんでした。日本だけでなくやはりカロチャ刺繍の方が人気があるようです。そこでカロチャに行くことにし、バスターミナルからカロチャ行きのバスに乗りました。カロチャはパプリカの産地としても有名です。まずパプリカの家に行き、次に民芸の家に行きカロチャ刺繍の名品をたくさん見ることができ、売店でテーブルクロスを買うことができました。その後ヴィシュキ・カーロイ博物館でカロチャの民族とその文化・歴史を学ぶことができました。

ブダペスト中央市場 Budapest Central Market

大変大きなマーケットです。地下のフロアーには魚屋さん、地上フロアーでは新鮮な野菜や果物、肉製品、チョコレートやお菓子、気軽に食べられるカウンターレストランなどが並んでいます。さすがパプリカとお土産にしても良さそうなパプリカ製品を扱う店舗は多く、購入する際上手く話が進めば値段もおまけも良い感じになりそうですよ。上のフロアーには刺繍製品を販売する店舗が並び熱心な呼び込みに負けそう!でも素人のわたしでもわかるくらいピンキリの物が有るのでよく見比べる必要有りです。販売品はカロチャ刺繍が大半ですがマチョー刺繍や IRASOS (イーラーショシュ刺繍)も売られていました。翌日はカロチャ(カローチャ)へ出掛けるので刺繍を見る為の予習になりました。

カロチャ・パプリカ博物館 Paprika Museum (Kalocsa)

暑さのせいなのか、ここまで足を運ぶ刺繍愛好家観光客は稀なのか事情はわかりませんが私たち2人以外の見学者はいません。この館の主人は近隣住民ー唐辛子栽培農家さんが運び込んだ生産物を引き受けて外との取引を担う仕事をしていたそうです。建物の2階のどの部屋のドレープやバランスには唐辛子を刺繍のデザインに取り入れていて館の役割を象徴し、とても印象的です。テーブルクロスも思わず笑ってしまうくらい唐辛子がいっぱいのカロチャ刺繍のデザインでした。壁の高い位置にはたくさんの花が描かれています。

カロチャ・民芸博物館 Folk Art Museum (Kalocsa)

パプリカ博物館から民芸博物館へは徒歩で移動できる距離です。歩いている人は見当たらず塀の奥の犬に吠えられながらの徒歩移動。博物館には見学者の受付兼店番の女性一人だけがいました。館内独り占め見学です。せかされる事も無くゆっくりと楽しんで見学する事が出来ました。女性がいくつかの質問に答えて下さいました。観光客の多いシーズンには地元のご婦人達がテーブルを囲み刺繍を楽しんでいる様子を見る事が出来るそうです。又壁に描かれたたくさんの花の絵は寒く長い冬を少しでも明るく過ごす為の知恵とのことでした。ここの刺繍販売用コレクションの説明を伺いながら見せていただきました。カロチャ刺繍とレーシーなニードルワークで完成された1点を購入しました。わたしの宝物です。

カロチャ・ヴィシュキ・カーロイ博物館 Viski Karoly Museum (Kalocsa)

歩いても歩いても観光客は見当たりません。取りあえずやっと見つけたレストランでランチをいただくことにしました。レストランの選びようがなく入って行くと外からの印象とは違って中は広く建物の軒下に(テラス席)もいくつものテーブルがセットされています。植物園の様なガーデン内のテーブル席でも食事をしている人達がいます。何を注文したのか忘れてしまいましたが記憶にあるのはサクランボのスープ。フルーツが豊かなご当地メニューらしく周りのテーブルにもサクランボスープの鍋が置かれています。サクランボの入ったピンク色の甘いスープでした。
さあ午後の活動開始です。広い道路を挟んで向かい側にある博物館に入りました。歴史をうかがい知ることの出来る生活用品や農機具が丁寧に保管展示されています。2階にはフォークコスチュームがシチュエーションごとに数多くの点数を揃えて展示してあります。見学して良かったと思える博物館です。やはり見学者は2人だけでした。シーズンオフなのでしょうか

マチョ刺繍 Matyo Embroidery

2016年12月、二度目のハンガリー旅行でブダペストから約130km離れたマチョ刺繍の街メセーケヴェジュドに行ってきました。地球の歩き方にも載っていない街ですが温泉リゾートとして人気があるそうです。

マチョ博物館 Matyo Museum (Mezokovesd)

博物館の正面にマチョ刺繍を今日のスタイル(多種多様な花柄と豊富な色)に発展普及させたKisjanko Bori女史の胸像が置かれており、2階の展示室には女史がデザインした花々の元絵が展示されていました。今日見られるマチョ刺繍のデザイン軸となる花ばなを描き上げた女性がKisjanko Boriさん。Boriさんにより完成された花ばなの手描きの元絵を見学する事が出来ます。当地では木製の家具に花ばなを描く事も暮らす人々にとって民族性を象徴する大切な事の一つです。ご当地のアーティストよる作品も展示されています。以前NHKからの取材も受けたそうです。わたしも博物館ショップでこのアーティストさんの小さな作品を思い切って手に入れました。

ハダス地区 Hadas District (Mezokovesd)

マチョ博物館の近くに、マチョ刺繍を発展普及させたKisjanko Bori女史の家を中心に民芸関連の家が集まっている地区があります。あいにく塗装家具の家などは閉まっていましたがKisjanko Bori女史の家、織物の家、刺繍の家、民芸品店などを見ることができました。博物館とは違って生活の中の刺繍を見ることができ良い勉強になりました。

マチョ刺繍講習 Matyo Embroidery Workshop

ハダス地区の民芸館(House of Folk Arts)で1時間ほどマチョ刺繍の個人レッスンを受けました。教えていただく時間も限られていましたのでpointのみ例えば先生はデザインをトレースする場合どの様な工夫をされていらっしゃるのか? 先生の針運びや手や指の使い方を学ばせていただきました。また特別に民族衣装を身に着けてお迎えいただきました。ありがとう御座いました。

トランシルヴァニア刺繍(ルーマニア) Transylvania embridery (Rumania)

ルーマニアの赤い薔薇 という本を持っています。EUROPA ORIENTALIS  by MIYA KOUSEI、1991年11月1日 日本ヴォーグ社 発行です。民族衣装や刺繍に興味を持ちはじめたわたしの為に手に入れてくれました。写真と文章から人々の赤裸々な精神性が読み手に伝えられます。身に纏う衣装も精神性を表すもの。
わたしの旅は2016年12月 それまで折りに触れトランスシルヴァの刺繍や刺繍をしている様子なども最近の情報検索ツールで調べて見たりしながら現在刺繍をされる方におあいしたいという想いを重ねてきました。

ブラショフ民族博物館 Brasov Etnografie Museum

トランシルヴァニア民族博物館(クルージ・ナポカ) Transylvania Etnografie Museum (Cluj-Napuca)

トランシルバニア地方の民族衣装が展示されています。残念ながら展示変更作業が行われていて一部見ることができませんでした

カロタセグ地方 Kalotaszegi area

クルージュ・ナポカの西50kmほどの地域の村イズヴォル・クリシュルイの国道沿いに民芸品を売る店が並んでいます。クリスマスイブのため開いている店は少なかったのですが良い刺繍を買うことができました。丘の上には町を見下ろすように要塞教会が建っていました。国道の両側に近くの人々が農閑期や時間がある時に制作した民芸品を販売する店、よくよく見て行くと日用品雑貨、オモチャ、スポーツ用品、衣類、野菜や果物も並べるお店、台所用品等々も販売しています。販売相手は観光客だけではなく住民の人たちも利用する屋根のないショッピングモールの様です

シック村 Sic villege

クルージュ・ナポカの北東40kmほどのハンガリー系住民が住む村を訪問しました。到着してまず教会に行くと丁度ミサがあるようです。雪が舞う中、村人が三々五々集まっていました。年配の女性は民族衣装(赤又は黒のスカート、黒い防寒上着、黒いスカーフ)を身に着けていました。教会の中では小学生くらいの子供がバイオリンで賛美歌を弾いていました。教会の祭壇や周りは赤い糸で刺繍したIRASOSで飾られています。話しはそれますがノルウェーのフィヨルドにそった村の小さな教会の祭壇にはハーダンガー刺繍のクロスが掛けられていました。飾られている刺繍クロスに人々の崇高な想いが込められている様に感じます。次はブカレストの旅行会社に依頼してあったシック村家庭訪問です。シック村の伝統的な緑色の家に着くと白いスカーフをかぶり赤い服を着た女性が出迎えてくれました。67歳になるクララさんでした。そしてなんと我々を連れてきてくれた車の運転手はクララさんの息子さんでした。丁度クリスマスイブなので実家に帰ってきたのでした。通訳ガイドのロクサーナさんがギターを持ってきていて、クララさんの家の前で歌を歌い始めました。歌を歌わないと家に入れてくれない風習があるのだそうです。家に入ると歓迎のお菓子が用意され、自家製のスモモのパリンカ(強い蒸留酒)で乾杯です。ダイニングルームのサイドボードや壁の飾り棚などは綺麗な花模様が描かれていました。全てクララさんの手によるものだそうです。一旦外に出て「清潔の部屋」と呼ばれる嫁入り道具を飾る部屋のある離れに案内されました。そこでもう一つのサプライズが待っていました。玄関を入ると美しく花模様が描かれた木製の箱の上に日本の本が置いてありました。「ルーマニアの赤い薔薇」という1991年に出版された日本ヴォーグ社発行の写真集です。この写真集を見てシック村に来ることを決めた本でした。伺ってみると著者の「みやこうせい氏」はクララさんの家に泊まって取材していたそうです。みやこうせい氏のポートレートが大切に壁に飾られています。また日本のテレビ番組の取材で女優の羽田美智子さんが10日間泊まって生活したことも知り得ました。驚く事が次から次へと起こり奇跡の様です。「清潔の部屋」に入ると天井まで届く程の高さまで刺繍を施されたピローをはじめカラフルな寝具や衣装箱で埋め尽くされていました。これこそ本やインターネットで見て憧れたそのものと感激しました。母屋に戻ってクララさんから刺繍の手ほどきを受け、日本では見たことのない技法を見せていただき図面も書いて下さいましたが難しい刺し方です。そのあとクリスマス料理をいただきました。チキンスープ、牛肉料理、デザート、どれもクララさんの手料理です。素朴で暖かく美味しい料理を堪能していると、小学生くらいの男の子が入ってきて賛美歌を歌いはじめました。歌い終わるとみなさんからお年玉が渡されます。これがこの地方のクリスマスの習慣のようです。期待以上の体験をさせていただきました。思いがけず心のこもったおもてなしをしていただきました。一生忘れる事の出来ない素晴らしいクリスマスイブです。更にクララさんが大切に使われていたスカーフを譲り受けました。黒い布に自ら沢山の花模様を刺繍したスカーフです。ご当地の女性は教会に行く時や外出の際には必ず身に着けるスカーフです。
クララさんにたくさんの質問をさせていただきました。刺繍や家具に花模様を描く事などはどこかへ通って指導を受けたのではなくお婆さん、お母さんの手仕事を見て学び幼い頃から自分の持ち物などには刺繍をしていたそうです。クララさんとわたしの様子をキッチンの奥から見守るご主人様、クリスマス イブの大切な時間に私たちの訪問を受け入れて下さいまして本当にありがとうございました。忘れない様にメモしておきます。クララさんとわたしは同い年です。新しいスカーフが完成した頃また来て下さいとのご挨拶をいただいてお暇いたしました。